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1999-11-09[n年前へ]

埋蔵金を探せ 

電子ブロックで金属探知機を作りたい その1

 Yahoo!のオークションでこんなものを買った。オークションで落札したのは一つ(EX-60)なのであるが、あとから別口でもう一個(EX-100)手に入った。

電子ブロック (EX-60 & EX-100)

 手に入ったのはいいのだが、お金が飛んでいってしまった。困ったものである。さて、EX-60の拡大したところも示してみる。

EX-60でとある回路を作成中の図

 これを見て懐かしく感じる人も多いはずだ。少なくとも、私の職場ではかなりの比率(80%位か)の人がこれで遊んでいたようで、

「オレはマイキットだった。」とか、
「もっとずっと前のスケルトンになる前のを持ってた。」
「おもちゃ屋の店頭で欲しくて眺めてた。」
などと、声があがった。しかし、新入社員位になると、
「何ですか、これ?」
「欲しかったのに、買えなかったのですか?」
などと言う。ジェネレーションギャップである。いや、もちろん私と年がそんなに離れているわけではないのだが...

 さて、

などを見ると、色々と電子ブロックの情報が載っている。こういうWEB情報がすぐに眺められるなんて、素晴らしくて涙が出そうだ。

 私自身が持っていたものはSTシリーズというものだった。これは、EXシリーズよりも一世代前のもので、デザインなどはずいぶん違う。スケルトンと白・青を基調としたデザインで、今売り出しても人気が出るのではないかと思える。シンプルながらレトロ調なところがいい。しかも、「組み立ててその上面をそのままコピーすれば、回路図も出来あがる」という素晴らしいものである。素晴らしい開発環境である。

 自分で遊んでいた機種でないせいもあって、今回手に入れたEX-60,100を眺めていても、それほど懐かしいわけではない。私自身が遊んでいた機種は、手に入れたいとは実は思わない。昔見た夢は、リアルに蘇らない方がいい、と思うのである。昔埋めた玩具はそのままにしておく方が幸せなのである。

 ところで、「昔埋めたもの」と言えば埋蔵物である。ならば、「昔埋めた夢」は埋蔵金だろう。別に、「夢= 金」という切なくなるような等式を持ち出すつもりはない。別に、お金が飛んでいってしまったせいで、お金に目が眩んでいるわけでもない、と思う。しかし、埋蔵金は男のロマンである。埋蔵金のために人生を棒に振る人がいるというのも、当然である。何しろ、男のロマンなのだ。どこぞのTV局が発掘をしまくるのも、当たり前である。

 ちなみに私は埋蔵物発掘のアルバイトもしたことがあるが、それは正に「男の仕事」であった。知らない人が見たならば、それは土方にしか思えなかったろう。そのバイトの名前を知っている私にも、土方にしか思えなかった。埋蔵物探しとはそういうものなのである。

 埋蔵金が実際に発掘されることはほとんどない。それにも関わらず、埋蔵金伝説は腐るほど存在する。金は腐ることはないにも関わらず、埋蔵金伝説は腐るほどあるのだ。
 大体、どこの地方にも「朝日さす夕日輝く...」という言い伝えがあるはずだ。母と言えば垂乳根であるが、埋蔵金と言えば「朝日...」なのである。ただ、これにも多少のバリエーションがある。もしかしたら、そのバリエーションを探れば、蝸牛考ばりの考察ができるかもしれない。いや、本当にしてみようかな... それは、いつかやてみることにしよう。

 さて、埋蔵金情報を探してみる。すると、

  • TREASUREJAPAN ( http://www.bekkoame.ne.jp/~m1911a1/treasure/treasure.htm)
によれば、私の近所にも埋蔵金伝説は腐るほどあるようだ。自宅の窓から見えるあたりに、二つもある。具体的に挙げてみると、こんな感じだ。
  • 香貫の埋蔵金 N市上香貫、下香貫 -> かつて香貫一帯には九十九塚の古墳群があり、埋蔵金の伝承も残されている。「朝日さす夕日かがやく柿木の下に黄金千盃二千盃」。
  • 釈迦堂の埋蔵金 N市西野字霞釈迦堂 -> 愛鷹山の中腹にある釈迦堂に残る長者の黄金伝説。「朝日さす夕日かがやくこの所、黄金千盃朱千盃」。こちらも古墳群が存在した。
 写真も示してみる。なんて、埋蔵金が身近にあるのだろう。
香貫の埋蔵金(左の山近辺)と釈迦堂(右の山近辺)の埋蔵金の埋まる場所

 そう、めちゃくちゃ近い所に埋蔵金は埋まっているのである。そこで、散歩がてら埋蔵金を探してみることにした。しかし、そうそう簡単に埋蔵金が手に入るわけはない。どこに金塊が埋まっているのか、調べる道具が必要である。
 そこで、埋蔵金探しには必需品の「金属探知器」を作るにした。しかも、せっかく「電子ブロック」が手に入ったのだから、これを使って作ってみたい。

 そこで、まずは金属探知器の仕組みを調べてみた。すると、いろいろやり方はあるがLC発振回路を用いたものが一番簡単そうである。今回の道具はなにしろ電子ブロックである。単純第一でなければやってられない。
 
 このLC発振回路を用いたものはコイルをセンサーとして用いるものである。コイルに金属が近づくことによるインピーダンスの変化を検出するものだ。二つの発振回路を用いて、ヘテロダイン方式で発振周波数の変化を検知するのが一般的なようだ。

 最初の計画では、EX-60,100それぞれでLC発振回路を組んで、その差をアンプに通してスピーカーから鳴らそうと考えた。やってやれないことはないだろう、と考えた。そして、電子ブロックと格闘し始める。そして、2時間後...

「あ"〜〜〜〜。やってられるかぁ! こんな作業〜〜〜〜」

 電子ブロックEX-60&EX-100は、部品数が少ない。トランジスターは1つしかないし、抵抗・コンデンサーの数も3個位しかない。しかも、回路構成がまるでパズルである。平面構造と言えば聞こえは良いが、回路を自分で考え出すのがこんなに大変だとは思わなかった。
 始める前は「ブレッドボードの祖先だから、作業は結構楽かもね」、なんて思った。しかし、それは大きな間違いであった。

 電子ブロックを作った人達は天才である。

実はこれは作業を投げ出した後

 電子ブロックも埋蔵金も共にロマンである。そして、共にかつて埋めた夢だ。昔埋めたおもちゃは蘇らない方が良い。しかし、埋蔵金は私の手元に出現してくれるとうれしい。そのために私は、何としても電子ブロックで「金属探知器」を作り上げなければならない。そして、それを片手に、埋蔵金を探し出すつもりだ。

 こうして、金に目がくらんだインスタント埋蔵金ハンターは、電子ブロックを相手に格闘を続けるのである。というわけで、今回は「背景説明編」である。近いうちに、必ずやこの続編と共に、ゲイツくんもビックリの金塊を手中にする所存である。

そして、私が見つけた素晴らしい埋蔵物の話も書きたいところであるが、それはまた次回ということにしておこう。

1999-12-06[n年前へ]

立体音感を考える 

バーチャルサウンドソフトウェアを作ってみよう



 立体感というものには何故か強く心惹かれるものがある。まして、それが人工的な立体感であるならば、なおさらである。それは、画像・映像であっても、音であっても同じだ。色覚なども同様なのだが、人間の感覚というものを人間自身の技術により再現できたりするのが、実に面白い。

 何より、自分が実感できるというのが良い。結果を自分で感じることができるというのは、素晴らしいと思う。よくソフト技術者などで、「もう少し目に見えるものが作りたい」という人がいるが、それと同じである。

 小・中学校などでも実感できる教材や授業というのがあれば素晴らしいと思う。最近のWEBを眺めていると、そういう先生方のグループも多いようだ。そういう先生は「えらいなぁ」とつくづく思う。今の学校の先生は、そういうことをすればするほど、仕事としては時間単価が下がってしまうのだろう。それでも、そういった先生方は、きっとそういうことは気にしてはいられないのだろう。ホントにエライ。

 さて、立体感を実現するソフトであるが、そういった技術には色々なモノがある。音響の立体感の実現を目指す技術に関しても、古くから数多い技術がある。そういったものを追求しているWEBも多々あり、
 「今日の必ずトクする一言(http://www.tomoya.com/)」の

 などはその最たるものである。ここのWEBマスターなどは聴覚の専門家でもあるので、こういう話題に惹かれるのは当然なのだろう。

 また、そういったものを実現しようとする製品は昔から掃いて捨てるほどある。最近の製品では、

などもそうである。(といっても、今回の話しはずいぶんと長い間塩漬けになっていたので、それほど最近ではなくなってしまったのが残念である。)

 私も出張などで新幹線などに乗っている際には、E-500などでヘッドホンで音楽を聴いていることが多い。そういう時には、先の「山本式スーパーバイノーラルコンペンセーター」などが欲しくなり、音の立体感などについて色々と考えてしまう。必要に迫られているせいか、立体音感については、私もとても興味を惹かれるのである。
 というわけで、「できるかな?」でも立体音響について考えてみたいと思う。といっても、考えるだけでは面白くない。それに「ナントカの考え休むに至り」ともいう。私が考えるだけでは、何にもならないし、しょうがない。色々と実験をして遊んでみたい。
 そのために、まずはいくつかの道具を作ってみることにした。

 今回、作成するのは、山本式バーチャルサウンドシステムソフトウェア(名付けてYVSSS。略称が長いので、以降YVS3と称することにする。)である。先の「今日の必ずトクする一言(http://www.tomoya.com/)」の一連の話しに出てくるそれである。スピーカーマトリックスの程度を小さくしたものである。

 バーチャルサウンドシステムソフトウェアというと仰々しいし、ものすごいソフトウェアに思えるかもしれないが、実はそんな大したモノではない。それどころか、実に簡単なモノである。実際には、Waveファイルを開いて、そのファイルの左チャンネル(L)、右チャンネル(R)に対して、

  • R'= R - 1/3L
  • L'= L - 1/3R
という処理をしてやるだけである。これが、どのような作用を持つか考えるのは、先に挙げた「山本式バーチャルサウンドシステム」のWEBを読めばわかるだろう。もちろん、本「できるかな?」的にも色々考えてみたいわけではあるが、それは次回以降に後回しである。今回は、YVS3を作成し、自分の耳でその効果を実感するだけである。

 ここに、今回作成したソフトを置いておく。いつものことであるが、完成度はアルファ版以下である。


 使い方を示しておく。まず、下が動作画面である。水平方向にスライダーがあるが、チャンネル同士の演算の係数を決めるものである。左端が0%であり、右端が100%である。

WaveMixPro(YVS3)の動作画面

 すなわち、スライダーが左端であれば、

  • R'= R - 0 L = R
  • L'= L- 0 R = L
となる。つまり、オリジナルそのままである。また、スライダーが右端であれば、
  • R'= R - L
  • L'= L- R
となる。差分を出力することになるわけだ。
 Load_Convertボタンを押して、WAVファイルを選択し、変換することができる。その際、オリジナルのファイルは"*.org"という名前で保存される。

  さて、このソフトを使って、

  • 種ともこのアルバム「感傷」から「はい、チーズ!」
  • THE POLICEのLive at the "Omni" Atlanta, Georgia During 1983 U.S.A Tourから"SoLonely"
を試聴してみた。「はい、チーズ!」は途中がLive録音であるし、"So Lonely"の方は完全にLive録音であるからだ。

 試聴のやりかたは、Cd2wav32.exeを使い、CDからWAVファイルにする。そして、WaveMixPro(YVS3)を使って、バーチャルサウンドシステム構築する。そして、それをヘッドホーンで試聴するわけだ。適当にチャンネル同士の演算の係数を変化させ、聴いてみた。果たして、立体感は増しているか?

 さて、試聴した結果であるが、「うーん。」という感じだ。
 係数を大きくすると、まるで「カラオケ製造器」である。ボーカルが消えるだけである。しかも、聴衆が頭の真ん中に居座っているような感じである。つまり、立体感がむしろなくなってしまっている。「何故、オマエらはオレの頭の真ん中で拍手をするのだ」、と言いたくなる。頭が変になりそうである。
 かといって、小さいとよく違いがわからない。困ったものである。

 さてさて、まだまだ第一回目ではあるが、前途多難の気配であるのが心配なところだ。

2000-01-03[n年前へ]

音場の定位を見てみたい 

立体音感を考える その2


 前回(といっても間に他の話も挟まっているのだが)、

で「音の立体感」について考え始めた。今回はその続きである。「音の立体感」を考えるための道具を作る準備をしてみたい。

 色々なことを考えるには、その目的にあった測定器が必要である。何か新しいことをしようと思ったら、そのための新しい測定器を作成しなければならない(と思うだけだが)。そして、何より私は計測器なんてほとんど持っていない。だからといって、計測器を買うお金があるわけではない。というわけで、困ってしまうのだ。

 そこで、立体音感を考えるための測定器を作っていくことにした。といっても、すぐにできるとも思えないので、色々実験をしながらボチボチとやってみることにした。勉強がてら、ボチボチやってみるのである。オーディオ関連のことにはかなり疎いので勉強にはちょうど良いだろう。

 資料をいくつか眺めてみたが、特に

  • 「立体視の不思議を探る」 井上 弘著 オプトロニクス社
の中に簡単に音の立体感に関する因子が簡単にまとめられている。それは
  • 音像定位の因子
    • 両耳差因子 (音響信号)
      • 音の強さ(振幅)の差
      • 位相の差
    • 周波数スペクトル因子
というものである。今回はこの中の「音の強さ(振幅)の差」というものに注目してみることにした。よくある2スピーカ方式の「音の立体感」を考えるとき一番メジャーである、と思うからだ。左のスピーカーと右のスピーカーから聞こえる音の大きさが違う、というヤツである。

 そこで、いきなりだが今回作成した解析ソフト「音場くん一号」のアルゴリズムは以下のようになる。

  1. PCのサウンド入力から、サンプリング周波数 22.05kHz、Stereo 各チャンネル8bitで取り込みを行う。
  2. 取り込んだデータを4096点毎にウィンドウ(Hamming or無し)処理をかける。
  3. 高速フーリエ変換(FFT)を行う
  4. FFTの結果の実部について、左右のチャンネルの差分を計算する
 このようにすることで、各周波数成分それぞれについて、左と右のチャンネルに記録されている「音の大きさ(音圧)」の差がわかるといいな、と考えたのである。

 次に示すのが、「音場くん(仮名)一号」の動作画面である。「音場くん(仮名)一号」の画面構成は、

  • 右側->制御部
  • 左側->計測データ表示部
である。そして、左側の計測データ表示部は上から、
  • 音声波形データ(赤=左、緑=右)
  • 周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)
  • 時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)
となっている。ちなみに下の画面は種ともこの「うれしいひとこと」の中から、「安売り水着を結局買ったアタシの歌」のイントロ部を計測したものだ。
「音場くん(仮名)一号」の画面
「安売り水着を結局買ったアタシの歌」イントロ部

(黒字に赤、緑の色構成は変更の予定)

 計測データ表示部の拡大図を下に示す。

  • 音声波形データ(赤=左、緑=右)
  • 周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)
  • 時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)
というのが判るだろうか?かなりわかりにくい表示系であるのが残念だ。また、色もみにくい表示色になっていると思うので、近く変更する予定である。

 この表示計の意味を例を挙げて説明したい。例えば、下の画面では左の方に定位している音が鳴ったときの状態を示している。一番上の音声波形データでは緑(右)の波形は小さいのに対して、赤(左)の大きな波形が見えている。
 また、真ん中の「周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)」では横軸100(任意単位)程度の高さの辺りで左チャンネルに位置する音が発生しているのがわかる。
 また、一番下の「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」では時間的に一番最後(横軸で右側)の方の横軸560、縦軸100位の位置に白い(すなわち左チャンネルに定位する)音が発生しているのがわかると思う。

「音場くん(仮名)一号」の画面の拡大図
「安売り水着を結局買ったアタシの歌」イントロ部

 この曲のイントロでは、「ポンッ」という音が高さを変えつつ、左右にパンニング(定位位置を変化させること)する。
 一番下の「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」を示したグラフ中で白・黄色(左に定位)と青・黒(右に定位)する音が時間的にずれながら現れているのが判ると思う。

 このようにして、この「音場くん(仮名)一号」では音の定位状態についての「極めて大雑把な」計測が可能である(保証はしないけど)。「音場くん(仮名)一号」を使った他の例を示してみる。

 下は種ともこの「O・HA・YO」の中から「The Morning Dew」のイントロ部を示したものだ。

  • 左(白・黄)チャンネル方向に定位するピアノ
  • 右(黒・青)チャンネル方向に定位するガットギター
がつくる旋律が絡み合っているのがわかると思う。
「The Morning Dew」のイントロ部での
「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」
を示したもの

 これはまるでオルゴールのピンを見ているようだ。あるいは、シーケンサーや昔の自動演奏ピアノのロール譜のようである。対位法などの効果をこれで確認したくなってしまう。

 さて、ここまでの例は楽器も少なく、比較的自然な定位状態であった。しかし、以下に示すような場合には不自然なくらいの「音の壁」状態の場合である。かなり状態が異なる場合だ。

「KI・REI」のラストのラストコーラス部での
「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」
を示したもの

 これは、種ともこの「O・HA・YO」の中から「KI・REI」のラストのラストコーラス部を示したものである。人のコーラスが重なり合っていく部分である。色々な高さの声が重なり合っていく様子がわかるだろう。
 ところが、このグラフをよくみると、同じ音が時間的に持続しているにも関わらず、時間毎に定位位置が左右で入れ替わっているのがわかる。

 これはきっとエフェクターで言うところのコーラスなどをかけたせいだろう(素人判断だけど)。人工的にフィルタ処理をしているためにこのようになるのだろう。こういう結果を見ると、「音場くん(仮名)一号」をプログレ系の音の壁を解析してみたくなる。

 さて今回は、音声の定位状態を解析する「音場くん(仮名)一号」を作成し、いくつかの音楽に対して使ってみた。まだまだ「音場くん(仮名)一号」は作成途中である。これから続く立体音感シリーズとともに「音場くん(仮名)」も成長していく予定である。

 さて、一番先の画面中に"Re"という選択肢があるのがわかると思う。もちろん、これと対になるのは"Im"である。FFTをかけた結果の"実部"と"虚部"である。"実部"の方が左右の耳の間での音の大きさの違いを示すのに対して、"虚部"の方は左右の耳の間での位相差を示すものだ。つまり、ある周波数の音が左右の耳の間でどのような位相差を示すものか、測定しようとするものである。

 左右の耳に対する音の位相差というものは、立体音感を考える上では避けては通れないのだろう。しかし、位相差を処理しようとすると、どうしたらいいものかかなり迷う部分がある。また、今回のようなFFT処理をかけたときに得られる位相を用いて良いものかどうかもよくわからない。というわけで、今回は位相解析処理は後回し、ということにした。

2000-01-08[n年前へ]

着メロの音響工学 

この着信音は誰のだ!? 立体音感その3


 街中で携帯電話の着信音が鳴ると、周辺の人が一斉に自分のポケットを探る光景というのはよく見掛ける。それは、まるで「クイズ・ドレミファドン」のようである。そう「超・イントロクイズ」そのものなのだ。「このイントロはオレのか!?それとも!?」と皆が考えている瞬間である。
 着メロのイントロが始まるや否や、腰の携帯電話に手をやる様子は「おまえは荒野のガンマンか!」とツッコみたくなる程である。

 特に、私の勤務先などでは全員が同じPHSを持ち歩いているせいか、着信音が聞こえ始めると、みな自分のポケットを探り始める。もちろん、そのPHSの着信音は数種類ある。しかし、1500人程度の従業員がいるわけだから、1500人/ 数種類だけ同じ着信音があるわけだ。仮に15種類あるとしても、

1500(人) / 15(種類数) = 100(人/種類)
つまり、自分と全く同じ着信音のPHSを持つ人が100人もいるのだ。世の中には「自分と同じ顔の人が七人いる」というが、職場に同じ着信音の人が100人もいるのである。これでは、着信音が鳴ると同時に多くの人がポケットを探るのも自然だろう。

 もちろん、この解決策として、「着信音でなくてバイブレーターを使う」というものがあるわけだが、何故かその解決策は許されないらしい。不思議である。

 さて、そもそも、何故自分の着信音を区別できないのだろうか? まず、その辺りから考えてみることにする。
 着信音が鳴ったときに、「自分の着信音かどうか判断するための基準」は二つあるだろう。それは、

  1. 着信音の種類
  2. 着信音が鳴っている位置
の二つである。着信音が人それぞれ固有のものであるとしたら、着信音の種類を聞けば、誰の着信音か判断できる。また、仮に着信音がみな同じであっても、着信音が鳴っている位置を識別できれば、それでも誰の着信音であるか判断できる。自分の携帯電話の位置は、それぞれ把握しているのが自然である。だから、
着信音の鳴っている位置 = 自分の携帯電話の位置
が成立するかどうか即座に判断できれば、着信音が同じでも「自分の着信音であるか」の判断が可能ということだ。

  つまりは、「携帯電話の着信音という音源の定位」という問題を考えれば良いことになる。もし、「着信音の定位」が判れば、自分の携帯電話の着信音か他の人の着信音かどうかなんてことは考えなくて済むのだ。そう、今回は「立体音感」シリーズその3だったのである。

 それでは、一体「着信音がどこで鳴っているのか、すなわち、着信音の定位」が判るためには何が必要なのだろうか?
 

前回、

で「音の立体感に関する因子」について
  • 音像定位の因子
    • 両耳差因子 (音響信号)
      • 音の強さ(振幅)の差
      • 位相の差
    • 周波数スペクトル因子
の中の両耳差因子の内の「音の強さ(振幅)の差」について考えた。今回は、「着信音の定位」を考えるにあたり、「周波数スペクトル因子」に注目してみることにする。

 周波数スペクトル因子というのは、例えば、

の中の記述
 指を前方で鳴らしてみて下さい。 そしてすこしずつ手を頭の側方に、手と頭の距離を変えないようにして、移動してみて下さい。 音量がわずかに大きくなったこととある特定の中域および広域の音がより強調されることに気が付かれるでしょう。 この実験では、指を鳴らす動作は一定の音量と周波数を発生する音源として用いられたわけです。 耳は同一の音源が前方から来る場合と、側方から来る場合で全く違う音と聞き分け、頭脳にそれを登録します。 側方の音は若干大きく、また耳たぶのせいで高い周波数で聞こえます。
にあるようなものである。
 音波が人間の頭部を通過してくる間に音波の周波数分布が変化し、その変化具合で音波がやってきた方向を知ることができるというものだ(多分)。もちろん、位相分布も変化するだろうが、ここでは周波数分布しか考えない。

 こういう音像定位の因子における「周波数スペクトル因子」を考える時に、もし音源の周波数スペクトルがごく狭いものだったらどうだろうか?つまり、単一の周波数しか含まない音源だったらどうだろうか?周波数スペクトルが変化するといっても、単一のスペクトルしか含んでいないのだから、振幅が変化する効果しかない。周波数スペクトルの分布は何ら変化しない。
 ということは、「音像定位の因子における周波数スペクトル因子」が上手く作用しないことになってしまう。(もちろん、実際には非線形な効果が存在するだろうから、多少は周波数スペクトルも変化するとは思うが。)

 これと全く同じことはまたしても「物理の散歩道」で触れられている。ロゲルギスト著の岩波新書「第四物理の散歩道」の「不規則なものの効用 三節」である。純音より不規則な音の方が「立体感」を得られるだろう、と書いている。

 今回、「携帯電話の着信音の定位」を「着信音のスペクトル分布」という観点から調べてみることにする。携帯電話の着信音がどのような波形であるか、どのような周波数分布を持っているかを調べるのである。果たして、携帯電話の着信音の周波数分布はどうなっているのだろうか?(部品点数を考えれば、ほぼSin波か矩形波なのが当然だろうが...)

 まずは手持ちの機種で着信音の波形とスペクトルを見てみることにした。使った機種を以下に示す。
 

使用した Hitachi C201H

 それでは、着信音No4と着メロ「この木何の木」の波形とスペクトログラムを次に示す。それぞれのグラフ中で上は「時間vs周波数分布」を示すスペクトログラムであり、下は「時間vs強度」の波形グラフである。

 まずこれが、着信音No.4の波形とスペクトログラムであり、
 

No.4の波形とスペクトログラム

こちらが、「この木何の木」の波形とスペクトログラムだ。
 

「この木何の木」の波形とスペクトログラム

 どちらも周波数分布はそれほどブロードではない。すると、「音像定位の因子における周波数スペクトル因子」を用いた「立体音感」がうまく働かないかもしれない。ただし、着信音No.4に関しては時間的に変化しないが、着メロ「この木何の木」に関しては、当然だが時間的に変化していく。

 この違いが果たして、「着信音の音像の定位」の判断を左右するものか、自分の耳で実験することにした。着信音No.4と着メロ「この木何の木」を鳴らした時に、どこから鳴っているように聞こえるか判断してみるのだ。

 目をつぶり頭の周囲で着信音を鳴らし、その定位を判断してみた。すると、色々な着信音を聞いてみたがいずれも定位の判断がしづらかった。特に頭の前後の判断がしづらい。それは、着信音No.4と着メロ「この木何の木」でも同様であった。やはり、純音に近いと「音像定位の因子における周波数スペクトル因子」が働きづらいのかもしれない。

 そして、着信音No.4と着メロ「この木何の木」だが、むしろ着信音No.4の方が判断をしやすかった。メロディだと音が変わるときに定位が変わるかのような感覚を受けた。そのため、判断をしにくかった。もちろん、これは私だけの感覚かもしれない。その辺りは被験者を増やして実験をしてみたい(再実験をする日が来るかどうかは大いに疑問であるが)。
 また、もしかしたら着信音No.4の方が矩形波に近く、純音でないのが良かったのかもしれない。もしかしたら、の話だけれど。

 もし、今回使った音を聞いてみたい人がいるならば、

これを聞いてみてもらいたい。ただし、サイズがでかいので要注意だ。あとバックグラウンドがうるさいのはハードディスクとファンの回転音である。困ったものだ。

 最近多い「同時発声数が多い着メロ機能」というのも、使って実験すると面白そうだ。しかも、音が分厚いヤツがあると、案外良いモノかもしれないな、とうらやましく思ったりするのである。そして、着信音スピーカーがプアァで歪んでいる機種なんかが、色々な周波数成分を含んでいて、実は「着信音の定位」に関しては良かったりするのかもしれない、と考えたりする。しかし、こちらはチットモうらやましくないのであった。
 

2000-02-19[n年前へ]

携帯電話の同時性? 

競馬の写真判定とパノラマ写真 その後

 先日

を書いてから面白いメールを頂いた。その一部を抜粋すると、
 小生は超音波を利用した新しい流体場測定を行っていますが、この方法で得られるDataは空間1次元時間1次元の2次元データです。従って得られるのは、このページにあったような画像が直接得られるわけです。

 この方法といくつかの結果を発表してから、あちこちからコンタクトがありましたが、その中の一つが、NYのSirovichという高名な流体力学者からの手紙でした。彼はいわゆるSnapShotを、逆に小生のデータから構築できないか、というのです。

 今このWebでされたことの逆をしたいというわけです。流れの空間構造を解析するために使いたいのです。残念ながらこれは、以下に少々説明するように、原理的に無理な話で断らざるをえませんでした。

 つまり、時間軸に速度をかけて空間軸に変換できればよいのですが、流体場はそれ自身が速度分布を持っていますから、一体何を使えば良いのかが定まらない。

 電磁波の場合には光速が一定ですから、時間情報から空間情報を得ることができますが、古典流体力学では不可能なのです。工学的には平均流速を使って、時間-空間の変換をしますが、それはインチキとまでは言わないまでも、便宜的なも
のでしかありません。

 このWEBの中での例では、馬?の速度のみであとは静止しているので、可能でし
ょう。

とある。

 「馬?」という箇所に、私との意見の相違があるようだ。私が明らかに「馬」であると言い張っているものに疑問を持たれているような気がするのであるが、今回そこは気にしないでおく。

 なるほど、音波や電磁波などを使って計測を行い、得られた

  • 空間(あるいは量)-時間
のグラフから、音波や電磁波の速度を用いて
  • 空間(あるいは量)-空間
のデータを再構成する計測というのは多い。例えば、
  • 海の中の魚を探知する「魚群探知機」
  • 気象状況を計測する「気象レーダー」
  • 固体の中の電荷分布を計測する「電荷分布測定装置」
などもそうである。いずれも、音波や電磁波が計測される時間のズレから、音波や電磁波の速度を用いて、空間位置に変換して解析を行うものである。

「魚群探知機」は超音波を水中に発信して、その反射波が刻々と帰ってくる様子から、(超音波の速度を用いて、空間位置に変換した後に)障害物(ここでは魚群)の様子を計測するものである。「気象レーダー」も電波を使って同様に雲の分布などを測定する。
「電荷分布測定装置」の場合は、(例えば外部電界を印加し)電荷を持つ個所を振動させてやり、その振動がセンサー部に刻々と伝わってくる様子から(あぁ、なんて大雑把な説明なんだ)、(固体中の弾性波の速度を用いて、空間位置に変換した後に)固体の中にどのように電荷分布が存在しているかを計測するものである。

と、文章だけでは何なので、WEB上から、それらの計測器を用いた場合の計測例を示してみる。

 下が魚群探知機である。リンク先は

である。
魚群探知機
リンク先はhttp://www.taiyomusen.co.jp/gyogun.html

 また、この下は空間電荷測定装置である。これなども、とても面白いものだ。リンク先は

である。
空間電荷測定装置の計測結果
リンク先はhttp://www.crl.go.jp/ys/ys221/charge/PEA_3D.html

さて、こういうことを、調べてみるだけではしょうがない。自分でもそういう計測をしてみたい。
そこで、次のような実験をしてみようとした。

  1. 部屋の中に複数の「音の発信源」を配置する。
  2. 複数の「音の発信源」から同時に音を発する。
  3. それをPCで収録する。
  4. 音声が「音の発信源」からPCに到達するまでの時間を解析する
  5. 複数の「音の発信源」の位置を計測する。
 しかし、複数の「音の発信源」で同時に音を発するにはどうしたら良いだろうか?電子ブザーなどを複数制作して、部屋の中に配置しようかとも考えたが、それも少し面倒である。

 そこで、安易にも時報を使おうかと考えてしまった。しかも、数があって手軽ということで、携帯電話を使おうとしたのである。

 しかし、複数の携帯電話を集めて、117に電話して時報を同時に聞いてみると、とても同時どころではない。てんでばらばらなのである。電話のスピーカーから流れてくる時報のタイミングには結構ズレがあるのである。

 携帯電話の間には結構同時性がないのだ。また、固定電話とも比較したが、固定電話よりも時報が速いものもあれば、遅いものもあった。

 そこで、複数の携帯電話を聞き比べた結果を以下に示してみたい。この写真中で左の携帯電話ほど時報が先に流れており、右になるほど時報が遅れているのである。一番早い左と、一番遅い右では一秒弱の違いがあった。

左の携帯電話ほど時報が先に流れており、右になるほど時報が遅れている

 また、参考までに、家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いたサウンドファイルを示しておく。

この携帯電話は先に示した画像の一番左である。つまり、先の携帯電話群では一番時報が早かったものなのである。しかし、家の電話よりは一秒弱遅かった。ということは、家の固定電話と先の一番遅い携帯電話では時報の時間にして2秒弱の違いがあることになる。

 そして、「家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いた音の変化」をスペクトログラムにしたものを以下に示す。

「家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いた音の変化」のスペクトログラム

水平軸が時間軸であり、時間は左から右へ流れている。また、縦軸は音の周波数を示している。ここでは、「1」で示したのが家の固定電話の時報であり、少し遅れて「2」の携帯電話の時報が聞こえているのが見てとれる。

 よく時報を確認することはあるが(実は私はほとんどないのだが...)、携帯電話・PHSで時報を聞く限り、秒の精度はそれほどないようである。また、勤務先の固定電話は先の携帯電話群と比べても遅い方であった。それは少し意外な結果であった。

 今回調べた「携帯電話の同時性のなさは」は常識なのかもしれないが、電話の時報で時計を合わせるのはあまり精度が出ないやり方であることがわかっただけでもよしとしよう(別に実験を途中で投げ出した言い訳ではないけれど)。

 今度、TV(衛星TVなども遅延時間を考慮した時報の放送を行っていると聞くし)やラジオを用いて当初計画していた実験を行おうと思う。その際には、時報がPCに到達する時間のズレで「音の発信源」までの距離を計測し、左右のマイクでの違いを計測することにより、「立体音感シリーズ」のように「音の方向」を得てみたい。

 というわけで、話が「立体音感シリーズ」に繋がったところで、今回は終わりにしようと思う。



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