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2011-08-18[n年前へ]

京町家模型で確かめる打ち水の科学 

水の力と風の力で暑さの夏を吹き飛ばせ!?

 暑い毎日が続いています。その暑さを和らげて、ほんの少しでも快適に過ごすために、打ち水をして涼をとりたくなります。地面に水を撒(ま)き、暑さを和らげたくなります。

 ところで、打ち水をするとなぜ涼しく感じられるのでしょうか? まず一番最初に思いつくメカニズムが「熱せられた地面の上で撒いた水が気化する際に、周囲などから熱を奪い(気化熱)温度を下げる」というものです。しかし、この説明だけでは不十分で・いかにも(限られた範囲のことだけを考え・結論を出してしまう)視野が狭い考え方・発想であるようだ…と感じさせられたのが、次の文章です。

 京町家では居室空間の両側に庭がある。そのことが打ち水には大切な要件だと、ご夫妻(西陣帯地「渡文」当主渡邉夫妻のこと)にお教え頂いた。
 まず、その片方の庭にたっぷりと水を打つ。そうすると、そちら側だけが冷やされ、もう片方は暑いままなので、暑い方に上昇気流が発生し、結果的に、水を打った冷やされた庭から、座敷を貫通して、暑い庭へと風が流れるのだそうである。
 しばらくして水が乾いたら、こんどは反対側の庭にだけ打ち水をする。するとさっきとは反対方向の風が家の中を通っていく…その風は、どちらから吹くにしても、つねに打ち水の気化熱で冷却された空気が風となって通るので、結果的に、堪え難い暑さが、いくらか涼しく感じられるということなのだそうである。
 これは、「ひととき 2011年8号」に掲載されていたリンボウ先生小旅行記「涼をたずねて、いざ京都へ」中に書かれていた一節です。  古くから続く京都の町家は、まさにウナギの寝床のようで、入り口から最奥部の坪庭まで部屋と通路が真っ直ぐ続きます。居住空間を囲む両側に、交互に水を撒くことで(水を撒いた側の)地面とその上にある空気を冷やすだけでなく、温度差を作り・空気の密度差を作り、結果として、家の中を心地良く吹く風の流れを作る…というのです。京都の夏は風がほとんど吹きませんから、ほんの少しでも空気の流れができるだけで、夏の暑さが大きく和らぐように思われます。
 (坪庭が)果たす役割は実に多く、たとえば玄関庭の場合はお客さまを迎える場としての趣きに加え、夏場には打ち水をすることで表通りとの温度差をつくり、屋内に風を呼び込む機能もあります。

京都新聞「京都町家資料館」

 打ち水のメカニズム、水の気化熱で水を撒いた場所の冷却を行うだけでなく、打ち水を行わない場所との圧力差を作ることで風を吹かせる…という科学・工学的な仕組みは、とても素晴らしく魅力的です。というわけで、打ち水効果を実感するべく、100円ショップに行き、温度計を2個、A4サイズの透明プラスチックを2枚、セロハンテープを1個買い、総額500円ナリで「夏休みの実験工作」をしてみることにしました。「左右の”庭”に温度差を作ることで果たして風は流れるか!?」を実験し、打ち水のメカニズムを体感してみよう!というわけです。

 作ったのは、「透明な京町家模型」です。四角い筒状に透明プラスチックを組み立てて、その内部に温度計を貼り付け、さらに中を流れる風の動きがわかるように、中央部に(風鈴ならぬ)軽い発砲スチロール製の振り子をぶら下げてみました。この「透明な京町家模型」を、夕方過ぎの屋上に置いて、その片側にだけ水鉄砲で水を撒き、打ち水モデル実験をしてみたのです。

 35℃くらいに熱せられた屋上に水を蒔き観察すること10分あまり、…中に風が吹いているような気もしますが、「屋上を心地良く吹く(自然の)風」もあり、打ち水が作り出した風ではなくて、単なる実験ノイズ(自然の風)なのかもしれません(そんな屋上実験の過程を撮影したのが下に貼り付けたタイムラプス動画です)。



 そこで、実験の精度を高めるべく屋内に事件場所を移動しました。また、「透明な京町家模型」も、左右の”庭”部分に囲いを付け、周囲の風の影響を低減するように改造した上で(こうすると、まさに京町家のような構造になります)、おちょこに入れて「氷」と「沸騰させたお湯」を「左右の”庭”」に置いて、京町家模型の中に流れる風を観察してみました(下の写真)。

 実験をした結果、お湯を入れたおちょこが置かれた”庭”側からは湯気が上方に立ち上っていましたから、”庭”が(上部以外は)壁に囲まれていることを考えれば、もう片方の”庭”側から”町家内の部屋や通路”を通じて風が吹き込んでいるのだろうと判断されました(その他に風が吹き込む箇所はありませんから)。しかし、(風鈴モドキ)の発砲スチロール振り子を揺らすほどの”わかりやすく目に見える”風の動きは、残念ながら発生しませんでした*。


*『打ち水の「涼しい風」は床すれすれを這い流れると思われますので、振り子を床すれすれにおいて再挑戦してみるのはいかがでしょう?』というアドバイスを頂いています。

 もうすぐ8月が終わり、こどもたちの夏休みも終わります。けれど、残暑はまだまだ続くことでしょう。そんな残暑を気化熱で作り出した風の力で吹き飛ばす「京町家模型で確かめる打ち水の科学」を、こどもの「夏休みの実験工作」課題の題材にしてみるのはいかがでしょうか? 打ち水効果で吹く風を”目に見える”ようにする実験結果・研究結果が、将来の日本の夏を支えているかもしれません。

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2012-07-19[n年前へ]

「打ち水で京町屋を通り抜ける風の速さ」を計算しよう! 

 「真夏始めました」と天気の神さまが宣言したかのように、急に暑くなりました。蒸して暑い空気が体に重くまとわりつきます。

 京町家では「庭に打ち水をすることで、(水を撒いた)庭から(居住空間を通り)反対側への風の流れを作り、涼を得た」と言います(「京町家模型で確かめる打ち水の科学」)

 庭に打ち水をすることで、京町家の中には 、一体「どのくらいの風」が吹き抜けるのでしょうか? …そんな疑問、そんなハテナマークが頭に浮かんだので、ごく単純に京町家の坪庭(家の奥にある庭)に水を撒いたとき煙突効果が生じるものとして、京町屋の中を通り抜ける風量を計算してみました。

 まず、坪庭は高い壁に覆われています。その壁の高さは4mとしましょう。そして、水を撒くことで、(高さ4mの)坪庭内の気温が2度(外気より)下がったものとします。少しひんやりした坪庭は、坪庭最下部横から(居住空間を介して)暑い外へと空気が通り抜けることができるとします。すると、坪庭内と外部との圧力差で生じる風速はおよそ0.5m/s強、となります。

 秒速0.5mの風を「風力階級」で表現すると、「至軽風(しけいふう)"Light air"」です。たかだか秒速0.5mですが、"Light air"と聞くと、少し心地良く・気持ち良く流れていく空気が、蒸した暑く重い空気をどこか遠くへと運び去って行くように感じられるのではないでしょうか。

打ち水で「京町屋を通り抜ける風の速さ」を計算しよう!






2012-07-20[n年前へ]

打ち水の要件定義書「居住スペースの両側に庭がある」 

 『打ち水の要件定義書「居住スペースの両側に庭がある」』を書きました。

 しかし、水を撒く場所を、「(壁に囲まれた)家にある中庭」でなく「家の前の路地」に巻いたような場合、冷えた重い空気は家の中に吹き込むことなく、ただ通りに沿って他の場所に流れてしまいます。
 そこで、もう一度「京町家模型で確かめる打ち水の科学」で引用した文章を読み直してみると、「居室空間の両側に庭があることが、打ち水には大切な要件だ」と書いてあります。



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