hirax.net::Keywords::「レンズ」のブログ



1999-12-12[n年前へ]

色覚モドキソフトを作る(色弱と色空間その4) 

五十歩百歩

  まず、先に書いておこう。今回は、

で作成したTrueColorと似たようなプログラムを作成してみたい。何しろ関係ない話が以降、長々と続くからである。

  昔から、科学者は「色」というキーワードに強く惹かれている、と思う。そんなことを私が思うまでもなく、量子色力学(quatumchromodynamics)、色つき空間群(Color-symmetry)等のキーワードにその事実は現れている。これらの言葉は普通に使われる「色」という言葉とは違う性質を表すものである。しかし、科学者が「色」というものを基本的なものであると感じているために、どんなものが対象でも、「性質」の代表的なものとして、「色」という言葉が連想されるのだろう。

  私は学生時代の量子力学の授業のおかげで、「色」という言葉を聞くと今でも眠くなってしまうのである。何しろ、私の通う理学部の教室の横は農学部の畑だったのだ。教授の声と共に「モゥーーー」という牛の鳴き声が聞こえてくるのだ。教授の声と牛の鳴き声が絶妙のハーモニーとなるのである。ただでさえ眠くなるのに、そのハーモニーはクロロホルムもビックリの睡眠作用を発揮するのだ。私はそのハーモニーのおかげで何回も記憶を飛ばされた。
また、その牛達のおかげで、授業の中で「匂い」と聞いたりすると、牛の糞の「匂い」しか連想できないのである。困ったものである。あの農学部の畑がなければ、もしかしたら私は量子力学を好きになっていたかもしれない。そして、量子力学を極めていたかもしれないのだ...簡単に言えば私は量子力学の授業では落ちこぼれてしまったわけだ。

  ところで、昔の科学者達を考えると、「色」に関わらなかった人を探すほうが逆に難しいように思う。ニュートン、マクスウェル、ヤング、ヘルムホルツなどが代表的である。当たり前である。物理・化学に関わらず、「光」には関わらざるを得ない。当たり前である。さまざまな計測を行ったり、エネルギーを考えたりする上で光は最も重要なモノである。
 そして、「色」というものは「光」の大きな性質の一つである。しかも、それは「科学者自身にとっても」目に見える性質である。目に見えるものを無視する科学者は少ないと思われるので、科学者が「色」に関わらないわけにはいかないのだ。

  割に最近の科学者でも、意外な分野の人が「色そのもの」の研究をしていることがある。例えば、シュレディンガーなども色空間の提唱をしていたらしい。確かに、量子力学から色空間へはつながりを感じないこともないのではあるが、少し意外でもある。そのシュレディンガーが提唱した色空間がどのようなものであるのか、私は残念ながら知らないのだが、波動を深く研究していたシュレディンガーが提唱する色空間というのは非常に興味のあるところである。また、化学。物理学者であるダルトンは自らも色弱であるため、特にその辺りのことを研究し、報告している。

  さて、そのダルトンをinfoseekで検索してみると、

というページを見かけた。ここに、色覚バランスチェック用の図があった。昔、身体検査でやったことがあるような図である。こういった、図が人によってどのように見えるかは非常に興味があるし、気にかかるところでもある。
 もちろん、WEBページは会社の心(色弱と色空間 その2) - WEBページのカラーを考える 3 - (1999.08.10)で作成したTrueColorも同じような目的のために作成したものであるが、あれはあまりにも大雑把なモノだったので、作り直してみたいのである。なお、今回は画像のRGBとL、M、S錐体の反応の間の変換は
画像のRGBとL、M、S錐体の反応の間の変換マトリクス
左=RGB2LMS、右=LMS2RGB
という変換マトリクスを用いている。

  そこで、こういったWEB上の画像を読み込んで、

でやったL,M,Sの各錐体の感度が低いときの色覚シミュレーションを行うソフトを作成してみた。ソフトはこれである。前回と同じく、Susieプラグインを用いて画像を読み込んでいるので、「Susieの部屋」などから、Susie本体・あるいはプラグインを入手する必要がある。
 また、手間を惜しんだためProxy対応にはしていない。さて、動作画面サンプルを以下に示す。初期状態ではから画像を読み込むようになっている。もちろん、他のURLからも画像を読み込むことが可能である。画面左の三本のスライダーで各錐体の感度を調整できる。
truecolor2.exeを実行した画面

  この画面例では各錐体の感度は全て100%になっている。

  それでは、以下に適当に錐体の感度パラメータを変化させた場合のサンプルを示してみる。

truecolor2.exeで錐体の感度パラメータを変化させた場合のサンプル

  こうしてみると、これまで見てきたものとは違う数字が浮かび上がることがわかる。89,52などである。こういう仕組みを用いたのが、石原式などの色覚検査のやり方である。つまりは、異なる色を識別できないこと、すなわち、混同色を用いているのである。混同色を用いて文字を描くことにより、色弱であるかどうかを判断しようとするものだ。

  さて、こういった書き方をすると、色を混同してしまうのが色弱の人だけと勘違いされてしまいそうであるが、そんなことはない。全ての人が「色を混同してしまう」のである。どんな人でも、異なる波長の光であっても、例えばRGBなどの(多くても)三色を混合すれば同じ色に見えてしまう。つまりは、混同色だらけなのである。健常者と呼ばれるヒトも色弱と呼ばれるヒトもたかだか数種類の錐体を持つにすぎない。
 色々な光の波長分布を認識できる生物がいたとすると、彼らがからすればヒトは全て色弱ということになるのだろう。つまりは、五十歩百歩といったところなのかな、と思うのである。

2000-02-06[n年前へ]

パノラマ写真と画像処理 Pt.1 

パノラマ写真を実感する

 「パノラマ」という言葉は何故か大正ロマンを感じさせる。かつて、流行ったパノラマ館や江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」という言葉がそういったものを連想させるのだろう。私も自分で写真の現像・焼き付けをしていた頃は、フィルム一本まるまる使ってベタ焼きでパノラマ写真を撮るのが好きだった。

 そういう癖は持ち歩くカメラが「写るんです」と「デジカメ」へ変化した今でも変わらない。例えば、

の時に撮ったこの写真もそうである。
1999年12月の万座温泉

 そしてまた、次に示す写真もそうだ。これは1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したものである。360度のパノラマを撮影したものだ。

1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したもの

 観光に行った先で撮影したと思われるかもしれないが、残念ながら違う。出勤途中に撮影したものである。豊かな自然がありすぎて、涙が出そうである。

 パノラマ写真としては、こういう景色を撮ったものも良いが、人が写っているものも良い。私の勤務先がこの大自然の中に移転してくる前、都会の中にあった頃に居室で撮ったパノラマ写真などはとても面白い。窓の向こうにはビルが見えたり、周りに写っている人ですでに退職した人が何人もいたりして、涙無しには見られない。

 もちろん、こういった写真はパノラマ写真で楽しむのも良いが、もっと実感できるものに加工しても楽しい。私がかつて都会の居室で撮影したものは、当時はAppleのQuicktimeVRのムービーファイルに変換して遊んでいた。今はもうない居室の中をグリグリ動かすのはホロ哀しいものがあり、とても味わい深かった。

 ところで、WEB上でそういうパノラマのVRファイルを見せるにはどうしたら良いだろうか?もちろん、AppleのQuicktimeVRを用いれば良いわけではあるが、プラグインが必要である。私はQuicktimeは好きであるが、ブラウザーのQuicktimeのプラグインは嫌いである。WEBを眺めているときに、「Quicktimeのアップグレードはいかがでしょう?」というダイアログが出ると、少しムッとしてしまう。そこで、Javaを使うことにした。いや、もちろんJavaをサポートしていないブラウザーもたくさんあるが、こちらの方がまだ好きなのである。

 そのようなパノラマのVRを実現するJavaアプレットには、例えば

といったものがある。今回は先に示した「1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したパノラマ写真」を"Panoramania"を使って実感してみることにする。かなり重い(私のPCではかなりしんどいようである)Japaアプレットであるが、それを以下に示す。箱根の朝を実感して頂きたい。マウスでグリグリと言いたい所であるが、これがサクサク動くPCなんてそんなにあるのだろうか?
「1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したパノラマ写真 VR」





 さて、ここまでは単なる前振りである。本題は、実はこれから始まる。先日このようなメールを頂いた。

 私はWindowsを使っているのですが、AppleのQuicktimeVRに興味があって、QuicktimeVRのパノラマ・ムービーを作っています。しかし、素材となる画像の作成に四苦八苦しております。ご承知の通り、
    1. ライカ版カメラに24ミリ広角レンズをつけて、
    2. 三脚にパノラマヘッドをつけて、ぐるりと周囲を12枚撮りして、
    3. 現像、プリントし、
    4. スキャニングして、ステッチャソフトでレンダリングし、
    5. それをMacintosh上でMake-QTVR-Panoramaにドロップして、
    ようやく1枚のパノラマmovファイルができるわけですが、最初のカメラ撮影で、タイムラグのため、歩行者など、動きのあるものがうまくパノラマ化できません。

     その場合には、スリットスキャンカメラを入手し、それをカラープリントする設備を準備すればいいのでしょうけど、高価です。

     そこで、

    1. 8ミリビデオに広角レンズを付け、
    2. 90度横倒しにして、10秒程度で1回転するようにステッピングモーターで駆動するパノラマヘッド(自作)に乗せ、
    3. 高速シャッター撮影し、
    4. マックのAV機能で円周12枚の静止画を取り出
    5. し、
    パノラマ化しています。

     長々と分かりにくいことを書きましたが、要は、「マックで動く電子スリットスキャンソフト」をなんとか作っていただけないでしょうか?もし、そのようなソフトがあれば、

    1. 8ミリビデオを横倒しにして、
    2. モーター回転するヘッドでぐるりと360度撮影し、
    3. その撮影した動画ファイルの、各フレームから走査線にして数本分を抽出し(インターレースで256本のうちセンター128本目の前後数本の走査線分)、
    4. それを貯めて1枚のjpgファイルにする、
    5. そのJPEG画像をMakeQTVRPanoramaの入力にして、パノラマムービーを作る、
    ということが簡単にできるようになります。こういうソフトがあれば、だれでも、旅先などで、ビデオを横倒しに持ってぐるりとスピンするだけで、あとはAVマックとパノラマ化ソフトで簡単にQuicktimeVRパノラマファイルが作れるようになると思うのですが…
 これはとても楽しい話である。しかもとても簡単なことなので、遊んでみることにした。

 まずは、答えを先に書いてしまおう。私が作らなくても、

  • NIH-Image (MacOS)
  • ScionImagePC (Windows)
というソフトがある。これらのソフトであれば、上に書かれている
  • 複数画像(動画)からの走査線抽出
は実現できる(ファイルサイズが少々不安だが)。特に、NIH-Imageであれば動画ファイルを読み込むことができる。つまり、Mac上で簡単に処理ができるのである(と、書いた。しかし、後日気づいたが256色の画像でなければ、駄目だった。どうしよう?)。ScionImagePCはNIH-ImageをWindows向けにポーティングしたものである。Macを科学技術に使う人であれば、NIH-Imageを知らない人はいないだろう。

 ScionImagePCの動作画面を以下に示す。NIH-Imageとほぼ同じである。

ScionImagePCの動作画面

 これらのソフトのStack-Slice機能を用いれば「複数画像(動画)からの走査線抽出」ができる。その使用例と、その面白い座標軸変換について考えてみたい。しかし、このページは少々重くなってきた。まして、走査線の抽出の話は使用画像が多くならざるをえない。そこで、次回、詳しく使用例を紹介することにする。よく、次回といったまま数ヶ月経つことがあるが、今回は大丈夫である。少なくとも数日後には登場することと思う(多分)。

 あれっ、ここまで書いてからinfoseekで検索すると、

なんてソフトがある。しまった、先に検索すればよかった。けど、まぁいいか。これはWindows上のソフトのようだし。とりあえず、次回へ続く。

2000-02-07[n年前へ]

記憶の中の風景 

Photoshopで美術遊び 水彩画と色鉛筆 編

 
 
 

 大学時代のとある日にCanon Ftbというカメラをゴミ捨て場で拾ってから、写真が私の趣味の一つになった。大学院に入る頃には、使われていなかった暗室と写真焼き付け機をも研究室の地下で見つけ、せっせと写真を焼き付けることも大好きになった。その暗室は怪人二十面相が登場しそうな古〜いレンガ造りの建物の地下にあって、実に不気味な場所だったのだが、全然気にならなかったのが今から考えるにとても不思議だ。

 私が拾ったFtbはいつの間にか壊れてしまったから、他のカメラを買ったり(それでも中古だったが)、交換用のレンズを買ったりということはした。しかし、私の興味は風景や被写体の方には向いたが、カメラやレンズあるいは暗室機材といったものに対してはあまり物欲がわかなかった。

 そんなことを思い出したのは、私の職場の人達がCanon EOS D30(358000円ナリ)を買ったり、EF300mmF2.8L(690000円ナリ)を買ったりと、物欲大魔人に変身していたからだ。まるで、「この世の終わりまであと一ヶ月」の「宵越しの金は持たない江戸っ子状態」で買い物をしまくっているのである。マジメに、「こ、この世の終わりが来るのですか?」とか、「あそこに見える富士山はヤッパリ噴火するのですか?」はたまた、「あなたは実はスタパ齋藤なのですか?」とかおそるおそる尋ねたくなるホドなのである。
 

 ところで、ふと気付くと時はすでに二十一世紀になっていて、持ち歩いていたEOS620はデジタルカメラのFinePixに代わり、数学教室の地下にあった暗室はノートPCの中にあるPhotoshopに変わってしまっている。そんなことをつらつらと考えていると、ちょっとセンチメンタルな気分になったので、今回は暗室で印画紙上に浮かび上がる画像を眺めていた頃を思い出しながら、photoshopで少し遊んでみることにした。(こんなに無意味に前振りを書いたのは、そんなに大した話じゃないけどセンチな気分なのだから勘弁して欲しい、という気持ちである。)
 

 写真というのは何の考えも無しに撮ってしまうと、不必要にリアルになってしまう。不必要にリアルということは、逆に必要なところがリアルでなくなってしまったりする。あまりにリアルすぎて、「記憶の中の風景」とは違ってしまったりするのである。そうなると、私にとってはリアルな「昔見た風景」ではないのである。私の中の記憶が間違っているといえばそれまでなのだが、私の中ではその記憶が基準なのだ。

 そんな時、いっそのこと写真を絵画風に加工して、私の「記憶の中の風景」に合わせてしまおうかと思うことがある。写真を絵画風に加工するソフトというのはたくさんあるので、そんなことは簡単にできてしまう。Photoshopに含まれているフィルターでもそれっぽい(かなり不十分な機能ではあるが)ものはたくさんあるし、サードパーティー製のプラグインもたくさんある。そしてまた、インターネット上の情報でも、「絵画風&ソフトフォーカス(デタラメPhotoshop)」などがある。そんな中でも、特にこのVirtualPainterなどはかなりスゴイ。いくつかの処理ができるのだが、その中でも特にこのPlince(色鉛筆風)とRabica (水彩画風)の二つはとてもきれいである。
 

Virtual PainterのPlince(色鉛筆風)
オリジナル写真
フィルターをかけるとこうなる。

 
Virtual PainterのRabica (水彩画風)
オリジナル写真
フィルターをかけるとこうなる。

 ソフトが勝手に自動変換したとは思えないくらい、なかなかスゴイできばえである。最初見たときはちょっとビックリしたほどだ。少なくとも私が色鉛筆や絵の具の筆を手にしても、こんな絵は書くことができないに違いない。いや、正直に言えば「できないに違いない」どころではなくて、「できない」のである。

 ところで、このソフトはシェアウェアで、未だ購入していないので画面中に「Unregistered」という文字が恥ずかしくも輝いている。もちろん、素晴らしいソフトなので買うつもりではあるのだが、他人様の作ったソフトをただ使うのは今ひとつ面白くない。まずは、自分自身で同じようなことができるかどうか挑戦して、そしてできることならば自分の好きなような効果が出るようなプラグインなりソフトを作ってみたい。

 というわけで、自分の頭を整理するために、まずはPhotoshop5.5単体を使って、この二つの処理と似た処理をしてみることにした。まずは簡単そうな水彩画風からだ。

 下の写真はメキシコのティファナで撮ったよくある街並みの写真だ。何の変哲もない写真ではあるが、実はこの直後にデジカメを道路に落としてしまって、私のデジカメ様はこの後お亡くなりになってしまったという、私にとってはとても哀しい写真なのである。
 

メキシコのティファナの風景

 さて、この画像を水彩画風に変換する時の方針は、

  • 色が付いてる部分は、水彩絵の具で塗りつぶす。つまり、階調性をなくして、境界はにじませる。
  • 細かな部分は鉛筆で書くから、シャープに書く。
である。というわけで、まずは「イメージ→色調補整→色相・彩度」で彩度を最大にする。つまり、色鮮やかにしてしまうのだ。そうすると、もういきなり絵画風になる。JPEGの圧縮時のブロックノイズがもうなんというか良い感じに見えるのである。そして、次に「イメージ→モード→CMYKモード」に変換後、Kチャンネルのみ「フィルタ→シャープ→アンシャープマスク」をかける。それにより、細かい部分のエッジを強調しつつ、「イメージ→色調補整→トーンカーブ」でベタ黒部をさらに薄い色に変える。すると、シャッキリと黒のエッジ強調もされて、ポイントがはっきりしてくる。そうすれば、画を描いてる人の視点もシャープになるのだ。ちなみに、今回はしなかったが、アンシャープマスクの部分を「フィルタ→表現手法→輪郭検出」にすれば、VirtualPainterの水彩画風になる。

 そして、水彩絵の具っぽくするために、CMYチャンネルを選択して、「フィルタ→ノイズ→ダスト&スクラッチ」をかける。そうすると、もうかなり水彩画調に感じられるようになる。そして最後に水彩絵の具のにじみを再現するために、CMYチャンネルのみに「フィルタ→表現手法→拡散」あるいは、ランダムのグレーノイズを2チャンネル分用意して、「フィルタ→変形→置き換え」でにじみを表現しよう。ちなみに、今回は「フィルタ→変形→置き換え」の方を使ってみた。ここで、「フィルタ→ブラシストローク→はね」はCMYKモードでは使えなかったので、残念ながら却下である。また、色モード変換時に彩度が低下するので、彩度アップは適時しておいた方が良いだろう。

 こうして、紙の漉き目に沿った水彩絵の具のにじみも処理すると下のような画像が出来上がる。「できるかな?」の色鉛筆風のメキシコのティファナの風景である。
 

紙の漉き目に沿った水彩絵の具のにじみも入れて、ハイ出来上がり。
「できるかな?」の色鉛筆風のメキシコのティファナの風景

 私のセンスがいまいちなのはさておき、水彩画風にする処理としてはまぁ許せるレベルだと言えるかもしれない。処理自体は何段階もあるが、アクションファイルでも作ってやれば、簡単にできると思う。
 

 さてさて、このイキオイで一気に色鉛筆風も片づけてしまおう。こちらの色鉛筆風の方針は、

  • 画像を何色かに分解して、その色で斜線をひく。
  • 色が濃い部分は別の角度からも線をひく。
  • 細かい部分は黒鉛筆で少しだけシャープな線を入れておく。
という感じだろう。実際の手順はこんな感じだ。

 まずは、まずは「イメージ→色調補整→色相・彩度」で彩度を最大にする。「イメージ→色調補整→トーンカーブ」で少し明るめの画像にする。次に、「フィルタ→ピクセレート→点描」で、何色かの色に分解しつつ、なおかつ点画像にすることであとで色鉛筆風の斜線に変形する準備をしておく。そして、「フィルタ→ブラシストローク→ストローク(斜め)」で点を斜線に変形させ、その後「フィルタ→シャープ→アンシャープマスク」をかけて、エッジをシャープにして、色も鮮やかにして色鉛筆っぽくする。また、現画像を「イメージ→色調補整→トーンカーブ」ですご〜く明るめの画像にしたものに対して、同様の処理をかけて(ただし、斜線の角度は変え)、先程の画像にαチャンネルで重ね合わせる。また、現画像を「イメージ→色調補整→トーンカーブ」でものすご〜く明るくしたものもさらにαチャンネルで重ね合わせる
 この色鉛筆風の処理のコツは点描で分解して、ストローク(斜め)+アンシャープマスクで長めの鮮やかな線にすることである。

 すると、こんな感じで「できるかな?」の色鉛筆風の藤原紀香のできあがりである。Photoshop付属のフィルタだけで処理している割には、なかなか良い感じのできに思えるのだが、それは単に藤原紀香の色香に惑わされているだけかもしれない。
 

「できるかな?」の色鉛筆風の藤原紀香
例:1

例:2

 今回は、写真画像を会画風にするためにはどんな処理をすればよいかを考えるために、Photoshopの内蔵フィルタだけを使って処理してみた。次回は、今回考えた処理の流れを自作アプリで組んでみたいと思う。そうそう、あと「こんな処理をしてみたい」という希望メールも大歓迎です。そういう希望を教えていただければ幸いです。だからといって多分何をするわけでもありませんが、ハイ。
 

2000-02-27[n年前へ]

「文学論」と光学系 

漱石の面白さ

 前回、

さて、モナリザと言うと、夏目漱石と「モナリサ」にも言及しなければならないだろう。
と書いた。何しろという具合に、「できるかな?」では漱石が結構レギュラー出演している(させている?)のである。当然、「モナリザ」ときたら漱石を出演させないわけがない。

 その漱石は「永日小品(リンク先は青空文庫)」(リンク先は青空文庫)の「モナリサ」中で

「モナリサの唇には女性(にょしょう)の謎(なぞ)がある。原始以降この謎を描き得たものはダ・ヴィンチだけである。この謎を解き得たものは一人もない。」
と書いている。女性には興味がなかったとも言われ、ずっと付き添っていた男性との関係も噂されるダ・ヴィンチである。ここらへんは、果たしてどうか?とも思う。むしろ、新宿のホストクラブのホストの方が女性(にょしょう)の謎(なぞ)については詳しいのではないかとも私は考えたりもする。
 が、そんなことはどうでも良い。漱石はレオナルド・ダ・ビンチのモナリザに興味を持ち、小品を書き上げたのである。そこで、漱石とダ・ヴィンチの相似点を考えてみたい。

 レオナルド・ダ・ビンチの著作には「文学論」というものがある。漱石にも同じ名前の「文学論」がある。この「文学論」はこれまで読んだことがなかったのだが、

  • 「漱石の美術愛」推理ノート 新関公子 平凡社 ISBN4-582-82927-9
を読んで急に読みたくなった。それは、この本の中で
  • 遠近法
  • 漱石の文学論の「公式」
の関係について触れられていたからである。レオナルド・ダ・ビンチも遠近法についてはうるさかったが、漱石も何故か遠近法にうるさいとなれば、非常に面白い話である。そこで、図書館で漱石の「文学論」を借りてきて眺めてみた。

 これが、とても面白い。仮名遣いが古いため、なかなか目に入ってこないのであるが、とても面白い。これは絶対に文庫本にすべきである。眺めているだけでも面白い。

 まずは、冒頭のフレーズがいきなりこうである。

 およそ文学的内容の形式は(F+f)なることを要す。Fは焦点的印象又は観念を意味し、fはこれに付着する情緒を意味す。
 まるで、理系の教科書である。そして、目次(編)を大雑把にさらってみる。
  1. 文学的内容の分類
  2. 文学的内容の数量的変化
  3. 文学的内容の特質
  4. 文学的内容の相互関係
  5. 集合的F
 すごい。当時の文学論とは思えないような内容である。この「文学論」の中では先の公式(F+f)を軸として話が進んでいく。例えば、章のタイトルでいうと- 文学的Fと科学的Fとの比較一般 - といった感じである。
 また、「文学論」中では、例えば、浪漫派と写実派の違いについて数値的な比較を通じて述べられていたりする。実に「科学的」な思考による「文学論」である。いや本当に漱石は凄い。

 さて、中の文章を解説する力は私にはない。そこで、中の図表を示してみることにする。そこで適当に思うことなどを書いてみようと思う。

 次に示すのは、「文学論」の冒頭の方で「意識の焦点・波形」を説明した図である。
 

意識の焦点・波形

漱石全集第十一巻より

 この図は人間が何かを感じるときには焦点にピークがある、そして、その周りはぼやけたものが連続的に続いているということを示したものだ。これなど、

の時の「恋のインパルス応答」を彷彿とさせる。あの時の「恋のインパルス応答」を次に示してみる。
 
左:出会い(F)、右:それにより意識される恋心(f)

 この意識される恋心(f)は先の「意識の波形」と全く同じである。ある出来事(F)と、それに付着する情緒(f)を示したものとなるわけだ。付着する情緒(f)というのは中心が一番大きく、その周りにぼやけたものが繋がっているというわけである。人間の感じ方・情緒を光学系と結びつけているわけだ。
 いやはや、「恋のインパルス応答」と同じようなことを考える人はやはりいるものである。まさかそれが漱石だとは思いもしなかった。しかも時代を考えると凄まじい、としか言いようがない。

 そして、さらに次に示すのは

 およそ文学的内容の形式は(F+f)なることを要す。Fは焦点的印象又は観念を意味し、fはこれに付着する情緒を意味す。
ということを示す図である。先の - 「漱石の美術愛」推理ノート - ではこの図と遠近法の関連が述べられている。
 
「文学の焦点」

漱石全集第十一巻より

 ここで、縦軸は「時間」となっており、横軸は「色々な出来事」である。ある人が感じた「色々な出来事」を時間方向に収斂させていくと、そこには「作者自身の視点がある」というわけだ。これが漱石の言う「文学論」の中心である。

 この図などカメラや望遠鏡の光学系を彷彿とさせる。「光学系の一例」を以下に示す。
 

「光学系の一例」

 先の「文学の焦点」を示した図はレンズで光を焦点に集めるのと全く同じだ。いや、「焦点から光を投光する」のと同じと言った方が良いだろうか。以前、

で、
 景色に焦点を合わせて、フィルムに結像させるのがカメラだ。しかし、フィルムに写っているのは単なる景色ではない。カメラの光が集まる焦点にフィルムが位置していると思い込むとわからなくなる。逆から考えてみれば簡単に判るはずだ。カメラの視点にフィルムが位置しているのだ。フィルムに景色が写っているのではなく、フィルムが景色を選び、景色を切り取っているのである。

 写真に写っているのは、撮影者の視点なのである。写真を見れば、撮影者が、どこに立ち、何を見てるかが浮かび上がってくるはずである。フィルムに写っているのは撮影者自身なのだ。

と書いたのと全く同じである。その光学系には歪みもあるかもしれないし、色フィルターもかかっているかもしれない。しかし、とにかく焦点にはその人自身がいるのである。

 写真でも文章でもとにかく何であっても、色々感じたことを表現していく時、その焦点には表現者自身がいる。私の大好きなこの2000/2/25の日記なんか、実にそれを感じるのである。
 

2000-05-12[n年前へ]

メガネの内側にある歪み 

隠れたストレスに光を当てろ

 また、可視化の話である。いや、自分でも忘れていたが、「可視化」改め「見える?見えない?」シリーズである。今回はメガネの内側にある「歪み」、隠れたストレスに光を当ててみたい。そして、そこに何があるかを見てみたいのである。

 私の眼はどうも明るさに弱い。やたら太陽の光が眩しく感じることが多い。といっても、単に私のガマンが足りないだけかもしれない。あるいは、睡眠不足のせいかもしれない。そして、私は同時に暗さにも弱いのだが、こちらは単にビタミン不足による鳥目だろう。

 そういうわけで、明るいのに弱いので車を運転する時には大抵サングラスをかけている。サングラスは何本も持っているわけだが、最近のお気に入りはこれである。
 

偏光サングラス \1280也

 これは、偏光フィルター機能付のサングラスである。偏光というギミック付のところがお気に入りの理由である。以前、

で書いたように、偏光フィルターがあれば色々なものの反射光のみを遮ったりすることができる。例えば、下の右側の写真では左の写真に比べてガラス表面の反射光が減少していることがわかるだろう。これは偏光フィルターの作用のせいである。
 
右側の写真では左の写真に比べてガラス表面の反射光が減少している

 これと同じように、偏光フィルター機能付のサングラスを使えば色々な反射光を防ぐことができる。例えば、通常は反射光などで車のフロントグラスの内側にいる人の姿はよく見ることができない。しかし、このメガネをかけていれば、反射光に邪魔されずフロントグラスの内側を見通すことができるのである。もう、対向車なんてまるでフロントグラスがないかのようである。

 この偏光フィルター機能付のサングラスは、通常「釣り」などで用いられるものだ。水面の反射光を防ぐことにより、水中の魚の姿などを見やすくするためのものである。結構、海の近くに住んでいる私にはうれしい機能である。

 このサングラスをかけている時に、ふとある実験を思いついた。普段は透明にしか見えない「普通のメガネ」の影に隠れたストレスを目に見える形にしてみようと思ったのである。よく、「メガネの奥にストレスが隠れている」というが、そのストレスを見て取れる形にしようと思うわけだ。

 そこで、新婚ホヤホヤの「夜の帝王」I田氏(関係ないが、I田氏から「Hirabayashiさん、小杉のメーリングリストで-できるかな?-の話題が出てましたよ。」と言われた時はビックリした。とりあえず、どなたか知らないが、メーリングリストで紹介して頂いた武蔵小杉勤務の方には一言お礼を言っておきたい)にメガネを借りてみた。このメガネをじっくり眺めてみてもらいたい。
 

普通のメガネ

 この透明なメガネの奥に何か見えるだろうか?そこに「歪み」は見えないだろうか?「透明だから、何も見えないだろう。」という人もいるだろうが、あるグッズを使うと、もう明らかに見えてくるのである。それが、下の写真である。レンズを固定している辺りをよく見てもらいたい。不思議な
虹模様と十字の模様が見えるはずだ。
 

ところがあるグッズを使うと…

 プラスチック等は製造過程での不均一な応力や、外力により複屈折性を示す。光弾性と呼ばれる現象である。そのため、偏光面を直行させた偏光フィルターの間にそういうプラスチックなどを挟みこむと、その弾性体の内部に働いている応力分布の状態を調べることができる。それを応用したのが、偏光顕微鏡などである。

 例えば、下の写真はカセットテープのケースの左側部分を、偏光面を直交させた二枚の偏光フィルターで挟んでみたものである。見事に弾性体の内部に働いている応力分布が可視化できているのがわかると思う。これを応用すれば、例えば熱変形をしているようなものであれば、透明体の熱分布も簡易的に見て取ることができる。
 

カセットテープのケースの弾性体の内部に働いている応力分布

 そういうわけで、先の写真あるいはそれを拡大した次の写真のように普通では見えない透明なプラスチックレンズの中に隠れている「ストレス」を見て取ることができるわけだ。
 

メガネのレンズの中のストレスを可視化したもの
右は普通にみたもの
左は偏光フィルターを使ってみたもの

 とりとめもないが、今回は透明なメガネの影に隠れたストレスに光を当ててみた。ちゃんと見ようと思いさえすれば、目に見えるものは数多くある。「見える?見えない?」の境界線はその人自身が決めるのである。「できるかな?」では、これからも色々な「見える?見えない?」を追求し、「見えるかな?」について考えていきたいと思う。
 



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